契約書を読む前に

1.契約書を読む前に必要な心構え
2.契約書の文章の構造を理解する
3.解釈上の落とし穴に注意
4.複雑な言い回しは重要な法律上の定義文であることが多い
契約書を読む前に必要な心構え
契約内容を確認する前に必ず押さえておかなければならないことがあります。それは「相手も専門家に依頼して作成してもらったのだろうから、きっと公平な内容なのだろう」という思い込みを無くすことです。なぜなら、専門家は、たいてい自社(依頼人)に有利かつ適法な契約文書を作成するからです。そして、契約書が最終的に効力を発揮するのは裁判になったときです。その時に契約内容を確認するのは裁判官と弁護士です。裁判では契約書を有力な証拠資料として取り扱い、そこに書いてある内容を法律に照らして解釈します。そのときになってから「そんなつもりは無かった」「難しくて理解できていなかった」などの主張をしても、対等な業者同士の契約であれば基本的に通用しません。あるいは、自社で作成した契約書が「個人消費者/下請業者/フリーランスなどの立場が弱い側を保護するための法律に反するので契約内容は無効」と判断される可能性もあります。
特に契約内容に「片方のみの権利や義務を定める条項」「同じ段落に何度も『甲は』と『乙』が登場する」「一般的に見慣れない難解な言い回し」「意図が分からない部分」を見つけたら注意が必要です。それに合意した結果どうなるかを理解できるまで、何度も読み込み又は調べることがとても重要です。もしそれが「知的財産」「損害賠償」「保証」「解除」に関する条項であればハイリスクの可能性もあるため、必ず法務部門や法律専門家に見てもらうなどして、適切な判断を行うようにしましょう。
契約書の文章の構造を理解する
契約書の文章を正しく理解するためには、まず契約書の構造を理解することが重要です。契約書は一般的に前書、本文、別紙(付属書類)などで構成されており、それぞれ異なる内容を扱っています。まずは前書を読み、契約書全体の趣旨や目的を把握しましょう。次に本文の各条項の内容を読み進めながら、その条項が他の条項や別紙(附属書類)とどのように関連しているのかを把握することが大切です。条項の引用関係を理解することで、契約書の全体像を把握し、文言の意図を正しく捉えることができます。
解釈上の落とし穴に注意
契約内容の解釈は、文書自体の明確な表現だけでなく、法学上の定義の当てはめや、過去の裁判例に基づいて行われます。特に以下の落とし穴には注意が必要です。
- 具体性の欠如
契約書が抽象的な表現や曖昧な言葉を使っている場合、解釈が難しくなります。解釈の根拠となる具体的な事例や文脈を考慮することが重要です。 - 競合する条項
契約書の中には矛盾する条項が含まれていることがあります。解釈においては、法的な優先順位や重要性に関する原則を考慮する必要があります。 - 優先する契約
同一の取引に関連する複数の契約書を締結する場合があります。この場合において、どの契約書の内容を優先して適用するかを定めた条項を「優先条項」といいます。優先条項の定めによっては、他の契約書の内容も確認することが必要となります。 - 強行規定に反する可能性
法令の条文のうち、当事者間の合意があったとしても法令の定めと異なる契約をすることは許されない、とされているものを「強行規定」といい、強行規定に反する契約内容は無効です。強行規定に反していないかどうかを判断するには、専門知識が必須となります。
難解な言い回しは重要な法律上の定義文であることが多い
契約書は、提示する側、応じる側の両方が、内容を正確に理解する必要があります。しかし、契約書は独特の言い回しが多く、一般的に読み難い構成となっています。それは作成側が意図していることを、相手方が読み取り難くするためにではなく、あらかじめ正確に法的な言い回しを用いて定義しておかないと、将来、トラブルが生じたときになってから、売主/買主などの立場の違いによって、お互いが自己に有利な法的主張をすることになってしまう恐れがあるからです。
契約書には「紛争を防ぐ」という非常に重要な役目があり、そのために独特の法律用語や文法が頻繁に使用されます。これらの用語の解釈方法や文法の理解方法も学んでおくと良いでしょう。
契約内容が正確に理解されず、不正確な把握や誤解が生じると、重大な損失やトラブルの原因となります。重要な条項を正確に把握し、契約が成立する前に調整をすることで、トラブルを未然に防ぐことができます。もし条項の解釈に自信がない場合は、自身で解釈を試みる前に法務部門や専門家に相談し、適切な解釈を求めるべきです。